低刺激法の妊娠成績
8/11に放送されたTBS番組「情熱大陸」に、当院の出身母体である加藤レディスクリニック院長の加藤先生が出演されました。加藤レディスクリニックは当院と同じく、心と体に優しい、低刺激法による体外受精を行っています。
https://www.mbs.jp/jounetsu/2024/08_11.shtml
最近、高刺激法を行っている先生方からは、低刺激法は体への負担が少ないために毎月採卵周期を行うことができるので、たとえ患者さんが希望されても費用対効果から低刺激法は行うべきではないとの声が出ています。
確かに一見すると、高刺激法は注射の投与量が多くなることで採取できる卵子の数が増え、結果的に妊娠する患者さんが増えてくるようにも思えます。いわゆる数の論理です。
しかしながら、今年の日本産婦人科学会で加藤レディスクリニックの福田先生から発表された2021年のデータを見てみると、同院の移植あたりの生産率は全国統計(多くが高刺激法の施設)と比べて高い値となっていました(29.4%、39.4才 vs. 25.2%、37.8才)。
http://www.jsog-oj.jp/detailAM.php?-DB=jsog&-LAYOUT=am&-recid=42276&-action=browse
そこで同様に新橋夢クリニックの2021年データも比較してみましたが、加藤レディスクリニックと同じく、平均年齢が高いにも関わらず移植あたりの生産率は全国統計より高くなっていました(36.9%、40.8才)。
特に保険診療が始まってからは生産率がさらに上がってきています(2022年 38.0%、2023年 39.4%)。
以前、故加藤修先生がよく言われていたように、自然に近い形で取れた卵が一番赤ちゃんになれる卵なんだ、無理して排卵誘発剤を大量投与して取れた卵は質もよくない、という事が実感されるデータであると思います。
当院の胚移植について
当院で行っている胚移植についてお話しします
胚移植の成功、つまり妊娠することを考えるならば、不妊治療において最も重要なイベントは胚移植ということになると思います
熟練した培養士が細くて柔らかい移植カテーテルの中に、慎重に一個の胚を入れます。医師はそれを受け取り、拡大した超音波でカテーテルの先端を確認しながら、慎重にすすめてゆき、着床してと念じながら、子宮内膜の最も厚い場所に胚を置いていきます
胚移植を成功させるために、当院では事前に子宮の角度や向き、子宮頸管の長さをチェックします。子宮の形を把握してないと、いざ本番で移植に時間がかかって失敗する可能性があるからです
当然、子宮内膜の厚さやホルモン値も正確に調べて、異常がある場合は胚を融解する前に胚移植を中止します。また当院独自の方法として、1週間前の内膜厚と比較して、20%以上の子宮内膜厚低下がみられた場合も胚移植を中止することがあります
胚を移植するタイミング(排卵からの日数)やホルモン補充周期のプロトコールは、過去のデータから妊娠成功率が確立された方法で行っています
東京都の卵子凍結に係る費用の助成が始まりました
今回の助成金制度は、結婚後に凍結卵子を使用して妊娠する場合にも繰り返し助成が受けられるようになっており、より現実味がある制度となっています
当院では2007年より病気の方の未受精卵子保存を行っていましたので、その知識や経験を生かして、都の卵子凍結の医療機関に登録することになりました
不妊症でない方の採卵においても、当院の低刺激・小卵胞採卵は身体に負担の少ない有効な治療法であると思います
グレード不良胚について
当院では2年前よりグレード不良胚(CB、BC、CC)の凍結保存をやめました
また今年2月より、同様に移植妊娠率が低いとされる培養7日目胚の凍結保存も中止しました
グレード不良胚の扱いについては、先日の学会でも議論され、各クリニックにおいても様々な意見があると思います
特に保険診療では胚移植回数の制限があるためが、妊娠率の低い胚を移植することで患者さんの貴重な移植回数が減ってしまうのではないかと危惧されます
一方で、ごく僅かでも妊娠の可能性がある胚なら移植した方がいいのではないかとの意見もあります
どちらにも一理あると言えますが、私は前者の方が重要と考えました
オビドレル 出荷停止
不妊治療薬の「オビドレル」が出荷・販売停止となりました
オビドレルは発育した卵胞を成熟させるという、排卵トリガー薬(HCG製剤)であり、高刺激排卵誘発ARTを行う場合には必要不可欠な注射剤です
当院では、排卵トリガーとしては「ブセレリン点鼻薬」を主に使用しているため、治療法への影響は少ないと思われますが、薬剤が連鎖反応的に出荷調整されている現状をみると、今後も注視して行かなければいけないと思います
現在、すべての排卵誘発注射剤が何らかの出荷制限に陥っており、ますます自然周期・低刺激法の必要性が高まるものと思われます